ヤンマガの『雪女と蟹を食う』という漫画がある。全8巻。結構な問題作だ。男の妄想をそそる。もし俺が主人公だったらどうしただろう。考察してみる。
『雪女と蟹を食う』概要
『雪女と蟹を食う』どういう漫画かというと……まぁ何しろ雪女と蟹を食う漫画なのだ。
雪女こと超絶美人と冴えない兄ちゃんが予算100万で車で北上、北海道で蟹を食って心中することを目指す。(二人とも自殺願望を抱えている)
ヤンマガのサイトから説明借りようか。
雪女と蟹を食うのあらすじ
金も行き場もない男・北は、自殺を図るが、どうしてもあと一歩が踏み出せずにいた。ある日、テレビのグルメ番組を観て、「人生最後の日は北海道で蟹を食べたい」と思い立ち、強盗を決意する。高級住宅に押し入り、人妻に金を要求するが、彼女の行動は、全く予期せぬものだった――。
なお、ヤンマガのサイトで最初の3話無料で読める。
ちな、マガジンの公式アプリならもっと読める。俺はそっちで読んでいる。まあそういう話は後でしよう。
『雪女と蟹を食う』設定が秀逸な点(そして主人公がダメな点)①金
『雪女と蟹を食う』は設定が秀逸だ。
「もし俺が『雪女と蟹を食う』の主人公だったら~」という妄想をついしてしまうのも、半分は、状況設定が秀逸なためだ。んでもう半分は、せっかくのその状況を主人公が全然活用できていないから。
まず、「最終的には自殺することを念頭に、二人で100万円を使い切る」という設定が秀逸である。
100万円はけっこうな金だ。実際この100万円で、ふたりはちょっといい旅をする。行く先々でうまいもん食ったり、ちょっといい温泉宿に泊まってみたり、煙草も酒も吸いたい放題・飲みたい放題。そら人生最後の旅なら快楽に貪欲にもなるよな。
だが実をいうと、物語の一番最初で上手に立ち回っていれば、本当は10倍の予算で旅行が可能だったのだ。
↑第1話のこのときに、主人公に特大チャンスが訪れていた。「金庫に500万、銀行に行けばもう500万」。好きなだけ出してくれるという女からの有難すぎる提案。当然上限金額を申し込むべきところ、
男のこのフヌケた答え。お口で2回抜かれて賢者モードになっていた元自殺志願者は、ヒヨって「100万」で手を打ってしまった。情けなや、一時は50万にまで後退しかけていた。
俺だったら絶対1000万とる。俺だったら絶対1000万。
1000万あればできることが全然違ってくる。
『雪女と蟹を食う』設定が秀逸な点(そして主人公がダメな点)②女
もうひとつ設定が秀逸というか、これは男の夢だなと思わせるところが、雪女という美女の存在だ。
まず、美女である。そんで、金を持ってる。んで、社会不適合のダメ人間である主人公とは対照的に、社会常識がちゃんとあり、人当たりがよく、措辞・挙動にソツがなく、車の運転その他のスキルも完璧に身につけている。
さらに、尽くすタイプだ。男を立ててくれる。エロい。上のお口でも下のお口でも男が望んだだけ望んだタイミングで奉仕してくれる。
しかも、その奉仕がロボットみたいな冷たいそれでない。彼女は寂しい人生を送ってきて、温もりに飢えている。有り余る母性愛の発揮しどころがなかったので、ここぞと主人公に菩薩にも似た無尽蔵の愛情を注いでくれる。
要するに非常に男にとって都合のいい、非現実的な女なのだ。
だが人のいい主人公は、そこにつけ込むことに引け目を感じ、攻め込みを手控える。
これから自殺する前に一華咲かせる、不遇だった人生に復讐する、という人の態度ではない。しかも両者の利害は一致しているのに。俺だったら全力で攻め込む、搾取する。
『雪女と蟹を食う』俺が主人公だったらどうするか~初期設定~
というわけで妄想考察を始める。考察ってのも違うか。俺が『雪女と蟹を食う』の主人公だったらどうするか。
設定はすべてマンガを踏襲する。
・夏の東海地方からスタート
・都合のいい美女と2人旅
・最終的には自殺する
世界線の分岐は例のアノ瞬間だ。
ここで主人公が「じゃ、1000万で」と言った瞬間、主人公が俺に入れ替わる。俺とエロ美女の心中旅行がスタートする。
なお、エロ美女役は、麻美ゆまちゃんにやってもらおうと思う。
元AV女優の麻美ゆま。美女・エロい・いい感じに熟れてる・薄幸そう、ということで、これ以上の適役は思いつけない。
ゆまちゃんとエロエロ心中旅行@予算1000万。これで妄想させてもらう。
『雪女と蟹を食う』俺が主人公だったらどうするか~本州編~
さて東海地方から「蟹を食べに」美女と車で出かける。軍資金1000万。名古屋~札幌ということでいいのかな。
レンタカーで車を借りる
まずは原作通り、レンタカーで車を借りよう。正直、個人的には電車旅行の方が馴染みがあるし、かえって車になると勝手がわからないんだが、まぁそこは原作を尊重・踏襲する。
ここでのポイントは3つある。
・いい車を借りる
・保険に入らない
・車は借りパクする
快適な旅行のために、なるべくランクの高い車を借りたい。ただ、その際、保険には入らない。1000万とはいえ有限である。ムダなことには金は使わない。
ムダなことというのは、どうせこの車は借りパクして、乗り捨てするからである。だってこれは帰らない旅なのだから。東海地方で借りた車を東海地方へわざわざ返しには帰らない。そのまま自殺してしまう。
忘れんじゃねえぞ、伊達や酔狂の旅じゃねえ。自殺すんだよ俺たちは。
その意味で、原作にある「無意味に左ハンドルの車」は、チョイスとしてまったく正しい。俺達も左ハンドル借りてやろう。最高ランクの車を、最低期間だけ借りて、そのまま何日も何千キロも乗り回す。降り積もる延滞料金、何通もの督促状、果ては通報……すべて知ったことか。後は野となれ山となれ。
富士山登る
さて車を借りた。名古屋スタートで、どっち行くか。
どっちって、最終北海道目指すんだから、西進はあり得ない。どういう形でか北東方向へ進むべきだ。そのときルートがふたつ考えられる。列島の腹沿いか、背中沿いかだ。
名古屋から高山を経て富山、これがひとつあり得る。そんで日本海側を北上していくのだ。だが、ここで問題なのが、富山に行くと多分、蟹が食えてしまう。
それは何か違う気がする。蟹は飽くまでゴールなので、北海道に着くまでは、なるべく蟹っぽいところには寄り付きたくない。ということで、やはり東海道を行くことにしたい。
そのとき、自殺を念頭に置いた旅であるならば、やはり「一生に一度くらいは富士山登るか?……」という想念が頭をよぎるはずなのだ。
俺も実人生で富士山登ったことあるが、五合目の雑魚寝小屋で仮眠して弾丸登山って感じだった。しかし1000万の軍資金で雪女と蟹を食う世界線の俺は、一泊一万以上する八合目とかの宿(しかも個室!)に泊まって、無理せず快適に登山しちゃる。ご来光も拝む。
そんで下山後はふもとの温泉旅館でゆっくり汗を流す。富士山が見える眺望露天風呂、それもできれば個室に風呂がついていて二人でゆっくり入れるとこがいい。互いの足を揉んでいたわる。旅館のマッサージサービスを使ってもいいな。車があるから大分引っ込んだところの秘湯温泉旅館でも大丈夫だ。
富士急ハイランドなども入っちゃう。俺は絶叫が苦手なのだが、人生最後の旅と決めたからには、感覚体験の最大化を求める。味わえるだけのことは味わい尽くして世界と別れる。人気アトラクションの待ち時間をゼロにするという金持ちアイテム「絶叫優先券」も乱発しちゃおう。
花火見る
富士山の後どこ行くか。
ちょうど夏なので、各地で夏祭りとか花火大会とかやってるだろう。富士山のあとはたとえば内陸、長野に入って、諏訪で有名な諏訪湖祭湖上花火大会など見るのもいい。あるいは熱海・湯河原あたりで花火を見てもいい。有料観覧席でビール飲みながら。
ほかにも各所で花火・祭は楽しむだろうから、ツレ(麻美ゆま)のために一着浴衣を買ってあげよう。車の旅だから荷物が増えても困らないわけだ。浴衣の下はあえてノーブラノーパンで出かけて、ビールでよっぱらった挙句夜陰・雑踏で裾から手を入れて胸をもんだり、下のお口をさわさわして「濡れてるよ……」と囁いたりする。続きは今日のお宿で。
その後は鎌倉散策して横浜で夜景見て、そんで東京に入るのだ。ここまで何日くらいかかってる?
day1. 富士吉田(登山準備)
day2. 富士山八合目
day3. 河口湖(登山後癒し)
day4. 諏訪(花火)
day5. 熱海(花火)
day6. 鎌倉(散策)
day7. 横浜(夜景)
ここまで7泊。すべてそこそこいいところに泊まっている。平均して1人1泊1万。つまり2人で合計14万円だ。
もちろん、ぜひここに泊りたいという特別の希望があれば、3万でも4万でも泊まっていい。花火大会当日の諏訪もかなり高くついてる気がする。それやこれやで、まぁ宿泊には総計20万かかったこととしよう。で食費遊興費などもろもろを含めると、最初の一週間の出費は30万円だった。
見よ、これがもし原作通り軍資金100万だったら、オイまだ東京だぞ、札幌は遠いぞ、このペースで残り70万はキツイぞ?という騒ぎになってしまう。だが俺と麻美ゆまの軍資金は1000万なのだ。まだまだ全然余裕である。
東京
東京には2泊する。やってみたいことが色々ある。ここでは散財しよう。
まず、東京を代表するラグジュアリーなホテルに泊まってみたい。一泊目は(名前がいいから)帝国ホテルに宿ろう。
二泊目は外資を代表して「リッツカールトン東京」に泊る。
部屋のランクは、上を見ればキリがないから、まぁスタンダードでいいよ。いくら資金が潤沢でも、東京の2日間で100万円も使うわけにはいかない。
あと、次のような体験をしてみたい。
・スカイツリーの一番高いところに上る
・浅草で人力車に乗る
・ナイトプールではしゃぐ
・ビアガーデンでビール飲む
東京ではいろいろ映画とか芝居もやっている。ちょっと調べて気になったやつに出かけてみよう。人生の最後の日々の中の2時間、女とふたりで映画を観るというのも乙なものだ。手を恋人繋ぎしながら。ちょっとHなシーンになったらもちろん股間を触ってもらう。
あと、銀座の高級ブランド店、エルメスだかルイヴィトンだかに入って、財布とかちょっとしたものでいいから買ってみたい。モノが欲しいというよりは、体験として。
ところで、ゆまちゃんには申し訳ないのだが、東京の2日間のうちの1日あるいは両日、19~21時の2時間だけ、「大学時代の友人を訪ねてみる」との名目で、単独行動をゆるしてほしい。吉原の最高級ソープランドで遊ばせてもらう。しかも二輪車。費用は16万円だ。
↑以前書いたコルトピ記事で吉原最高級ソープ「女帝」の二輪車について詳しく語ってる。
というわけで、東京の2日間で下記のごとく散財した。
・最高級ホテル2泊 8万円
・最高級ソープ2輪2発 32万円
・最高級ランチ&ディナー 6万円
・ほか遊興費 5万円
――――――――――――
計 51万円
予算100万円だったらむろんこのような思い切ったことはできなかった。いま残金920万円。
東北
東京からは早い。てか、関東からあんまり出たことない俺にはよくわからん領域だ。
とはいえ急ぐ旅でもないから……それとも死への衝動が急がせるか?……極力ゆっくり北上していきたい。よく知らんがいいところがいっぱいあるだろう。宇都宮で餃子食べて、福島あたりで温泉入って、平泉で古刹遊歴して、とにかく名所旧跡・景勝地を巡る。土地のうまいものを食い、地酒を嗜む。蟹のにおいがしそうな日本海側にはかたくなに近寄らない。
宿泊は仙台など大都市よりも景色のいいところ、自然が豊かで空気のきれいな温泉宿がいい。それこそ銀山温泉とか。
ひとつこの東北編でやりたいのは、有名な東北4大祭りのうちのいくつかを見ることだ。特に秋田(日本海側だが特例として)の竿灯祭りというやつと、青森のねぶた祭りは、死ぬ前に一度見ておきたい。
まぁタイミングが合えばだが。
というわけで東北編では下記のごとく出費した。(急にざっくり)
・なんだかんだ十泊(20万円)
・なんだかんだ食費(8万円)
・なんだかんだその他(6万円)
――――――――――――
計 34万円
これで本州編は終わり。残金は890万円。次はいよいよ北海道だ。
旅の日常
……とその前に、俺と麻美ゆまの心中旅行の「旅の日常」を素描する。
まず、移動は原則として車(名古屋で借りパクしたレンタカー)で、運転手は麻美ゆまである。俺は助手席でぼーっとしている。景色を見たり、居眠りこいたり、何もしない。女と何か話してもいいが、心中というひとつ終局をともにする人と、今さら言葉で何を言い交わすのも野暮という感じがする。それよりはただ黙ってカーステレオから音楽聴いていたい。
車ばかりか旅行全体の舵取りをするのも女である。ガイドブックと睨めっこして、向かう先を決定して、よさそうな宿や食事処を見繕って、電話して予約して……などの実務もすべて女が担う。女のセンスと能力を信頼している。というより自分のセンスのなさと無能を。どこへとなり連れていけ。
また、この旅はエロい。俺が色魔であり、女もまたスケベであるから。ひとつとして同じ宿のないすべての夜が二発射で終わり、すべての朝がお早うフェラで始まる。
私の趣味により、女にノーブラで運転させていることも多い。祭や花火で浴衣ヴァージョンの麻美ゆまは、むしろ原則としてノーブラ・ノーパンである。野外の手マン・手コキ、放尿、ピンロー散歩なども頻々としてある。
……と、こんな具合に俺たちは旅している。運転しない俺は昼間から酒を飲む。一日中ふわふわしている。眠たくなったら居眠りこくまで。以上、『雪女と蟹を食う』的日常。
『雪女と蟹を食う』俺が主人公だったらどうするか~北海道編~
さて、ここまで20日間で100万円使って、名古屋から青森まで旅してきた。ついに北海道に入る。
札幌目指すならおおよそ上図のようなルートだろう。
しかし、青函フェリーとやらで北海道上陸した函館で、多分もうカニは食える。「雪女と蟹を食う」出来てしまう。いいのか? 俺たちの旅はこれで終わってしまうのか? 死ぬか?
函館朝市とやらで蟹はバリバリ売っている。見て見ぬふりはできない。食える。食えてしまう。んで食ったら死ぬのだ。そういう約束だ。
まだ予算は900万ある。結局は予算100万で足りていた、ということだろうか。もう少し……もう少しだけ、このまま旅を続けたい気がしてしまっているのだが。
だが目の前に蟹があり、ここは北海道であり、隣には雪女もいる。「雪女と蟹を食う」物語は、どう考えたってここで終わりである。俺は、俺たちは……函館で……
蟹を……
食った。
食って食って食いまくった。
だが麻美ゆまと話し合って、もうちょっとだけ死なないでみることにした。
だってまだ900万円あるんだもん。
↑雪女と「蟹を食う」夢は果たした。ここからは夢の先へ。
『雪女と蟹を食う』俺が主人公だったらどうするか~シベリア鉄道編~
「蟹を食ったら」改め「手元の900万を使い果たしたら」自死する、という約束のもと、俺と麻美ゆまのエロエロ心中旅行はつづく。新千歳空港から空路、ウラジオストク(ロシア)へ。
ロシアかい!!Σ(゚Д゚; とビックリした人もいると思うが(俺も自分の思い付きにビックリしている)、逆に生きながらえて東海地方に戻ったり今さら京都行ったりすることの方がナシだろう。どうせもらいもんの余生なんだからとことんやってやるさ。名古屋で借りた車は札幌に乗り捨てて、異国へ飛ぶ。知らない国で死んでやる。
ウラジオストクの街並み。すげー・・
それで俺たちは、ウラジオストクから、かのシベリア鉄道に乗って、広大なロシアの大地を横断する。
シベリア鉄道……世界一長い鉄道。ウラジオストクからモスクワまで9300㎞、7日間の旅。
これまで俺たちの「雪女と蟹を食う」旅は、自動車の旅だった。同じ景色を見ているとはいえ、女の方は運転に気を取られて、車窓を楽しむどころではなかった。
それがこうして鉄道旅のフェーズに入って、ひとつの客室でひとつの窓を眺めて、周りは言葉もわからない異人たち……車窓も見なれぬ異国の風景。そうしてこの旅の行きつく先は死である。終滅への旅。いよいよ旅愁が深い。
なんて美しいんだ……
しかし、費用はいくらくらいかかるんだろう。
ロシア鉄道のHPちょっと見てみた。俺の理解が正しければ、CBというのが一等車で、ここなら二人で個室を独占できる。それ以下のランクだと他人と同室になる。で、本日(これ書いてる今日)12/24から一番近い日でCBに空きがあるのが明後日12/26で、その料金は約6万ルーブル、日本円にして9万3000円だった。
つまり、二人で予算18万6000円で、ロシアを横断する6泊7日の鉄道の旅。
ランクを二等車に落として他人と同室にした方がロシア人との交流があって楽しい、との意見もあるようだが、俺たちの旅は特殊なので、そういう種類の楽しさは不要かと思う。食堂車等で異文化交流は可能かと思うし、夜はHしたいし。
ちなみに一等車の客室はこんな感じらしい。
座席兼ベッドみたいなのが2つ。でテーブルがあって、車窓。ギリ快適に旅が……できるのかな。防音はいいそうだから、夜(睡眠とセックス)は問題ないか。シャワーや便所もついてるそうだ。
まぁ、先達各氏のブログによると、食事も高い割にはまぁまぁだし、不愛想な車掌が突然闖入してきたりだとか、英語はまず通じないだとか、異国ならではの不便や不快がいろいろあるそうだ。
でもいいのだ。俺たちの旅は人生と世界を愛惜する旅。不快や困難も含めて人生だ。大概のことは女の方が矢面に立ってくれそうだし……
揺れる車内で朝が来て、夜が来て、腹が減ったら食事して、腹が重くなれば排泄して、ちんこが堅くなれば抜いてもらって、その単純な繰り返し。死への旅。メーテルとふたり、俺たちの銀河鉄道。
『雪女と蟹を食う』俺が主人公だったらどうするか~ヨーロッパ編~
どう考えてもまだ予算は850万円はある。おい、俺たちはいつ死ねるんだ。
お金、全然減らないね…
私達いつ死ねるの??
こんなことなら国内もう少しじっくり見とくんだったし(何を俺は急いで、わずか20日で北海道に達してしまったのか)、東京や札幌の風俗でもう少し散財しとくんだった。
残高がすなわち命数であるとするならば、やはり1000万は死への距離として遠すぎたのか。『雪女と蟹を食う』原作の「100万円」というのは、その意味でも秀逸な設定であったか。
仕方ない、こうなったらヨーロッパ旅行だ。シベリア鉄道の終着点であるモスクワ(ロシア)から、さらに西へ。ドイツ・フランス・スペイン・イタリア、さらにはギリシャ・トルコ、果てはエジプトに渡ってピラミッドを見たい。『雪女と蟹を食う』改め、『雪女とピラミッドを見る』。
モスクワ(ロシア)
モスクワ(ロシア)で奇妙な形状のカラフルな教会など見たい。赤の広場、クレムリン、それから……ボリショイサーカス見る。ボリショイ劇場。あと何だろう。マトリョーシカ買う。街を行く薄着のロシア美女を眺めて鼻の下のばす(麻美ゆまにたしなめられる)
パリ(フランス)
フランス・パリにも絶対行く。憧れの街。きっと美しいんだろう。北海道で蟹食って死んでなくてよかった、と思うことだろう。エッフェル塔、凱旋門。シャンゼリゼ通り。ルーヴル美術館でモナ・リザくらいは見て死にたい。セーヌ川、ノートルダム、モンマルトル。ムーランルージュ。ヴェルサイユ宮殿と、モンサンミッシェル。
アントワープ(ベルギー)
アニメ「フランダースの犬」のラスト、少年ネロと愛犬パトラッシュが、ベルギー・アントワープの聖母大聖堂内のルーベンスの名画の前で、「パトラッシュ、疲れたろう。僕も疲れたんだ……。なんだか、とても眠いんだ……」と言って果てる。大聖堂の名画の前で愛するものふたり眠るように死ぬる、というのは美しいイメージだ。死への旅路の途上にある俺たちは、各種の物語に描かれた甘美な「死」に共振しやすい状態にある。ぜひ俺たちもネロとパトラッシュになってルーベンスの前で「死」んでみたい。現実に肉体的に死ぬわけでなく、イメージの中で死ぬ。で肉体は宿に帰って泣きながら激しく盛り上がるのだ。(まぁ俺、「フランダースの犬」見たことなかとやけど)
アルプス(スイス)
ヨーロッパアルプスを見たい。富士山より高い山々が見せる、厳しくも美しい自然の姿がそこにあると聞く。スイスにはアレッチ氷河というのがあって、夏でも溶けない、太古から凍り付いたままの巨大な川なのだそうだ。俺たちを育み・慈しんでくれた(それが十分でなかったからこうして自死へと追い込まれたのであるが……)この地球を、ガイアを、許して死にたい。そのためにこの地へ。
バルセロナ(スペイン)
スペイン・バルセロナでガウディ建築を見たい。建設始まって100年くらい経つのにいまだ完成していない、今後数十年くらい完成する予定もない、だが建設中にもかかわらず世界遺産であり、内部も見学できて、その内部はすでにガッチガチに美しいという。人類を代表するアート、世界にまたとない珍しいもの。ぜひ一度拝みたい。あとバルセロナでサッカーの試合を見る。
それにしても俺たちはいつまで旅を続けるのだろう?
ここまで何日経ったんだろう、今いくら残金あるんだろう、俺たちはいつまで旅を続けるのだろう?
もはや懐かしい感じがするが、そもそもは名古屋でレンタカー借りて北海道を目指してたんだった。
それが北海道で死ねず、ウラジオストクに渡って、シベリア鉄道でロシアを横断し、モスクワに着いた頃には、30日が経っていた。この時点で1000万の資金のうち、150万ほどを使っていた。
今さら日本に帰ることは考えていない。旅で死ぬ。しかし、ヨーロッパでも東欧あたりの物価の安い国なら、暮らそうと思えば相当長く暮らせる。
宿泊費:1泊2000円(ホステル等)
食費:1日1000円×2人=2000円
計 4000円
1日4000円、5日で2万。500日で200万。1000日で400万か。つまり、予算の半分で3年暮らせてしまう。生きながらえるだけなら、今日明日にも死のうと思ったふたりが、なお3年や5年生きられてしまう。
だが、長く生きてどうする? 生から死への困難な跳躍のためには一種の助走が必要で、蟹を食べに北海道へというのはまさにそれであった。忘れるな、今も俺たちは、死へと跳ぶための助走をしているのだ。「東欧あたりの物価の安い国」に逗留などしてどうする。
第一、俺と麻美ゆまがいつまでも愛とエロで結ばれている保証はない。愛すること・愛されることに飢えていた女も、いつかはきっと、愛し愛されることに飽食する。今のところふたりを緊密に結び付けているのは近い将来の死という約束であるが、死の日の延期につぐ延期で結束も弛んでしまいかねない。
ふたりが愛と連帯を失わず、ぶじ彼岸へと渡り切るためには、威力と速度が必要だ。きめた。一日5万円は使おう。そこが最低ライン。体と欲望に鞭打って贅沢をしよう。苦行僧のように贅沢をしよう。
ローマ(イタリア)
イタリア・ローマ市内にある「世界最小の国」バチカン市国。そのバチカン宮殿内にシスティーナ礼拝堂というのがあり、そこはルネサンスの巨匠・ミケランジェロの壁画・天井画で埋め尽くされている。それを見たい。見たいというか、その空間に入りたい。恐らくそこには、人類が生み出した最も圧倒的によきもの、芸術の中の芸術、美のなかの美、がある。(『雪女と蟹を食う』原作の主人公があまりに言いそうにないことを言ってるが、そこはゴメン、もうそいつは俺だから。俺がそいつだから)
他にもローマにはコロッセオがあるし、古代ローマの遺跡もあるし、パスタやピッツァもうまいだろうし、ワインやジェラートもうまいだろうし、サッカーも観戦できる。イタリアは絶対楽しい。
ヴェネツィア(イタリア)
ヴェネツィア。「世界ふれあい街歩き」で受けた衝撃を忘れない。この街にはほとんど道というものがないのだ。すべての道が水路であって、移動は基本的に船でする。そんな街がこの地球上にあるのだ。絶対に訪れたい。それでゴンドラに乗るんだ。ゴンドラは日本の観光地でいう人力車みたいなもので、けっこう高くつく遊びらしいが、こういうところにこそ金を使うべきだ。サン・マルコ寺院というのもとんでもなく美しいらしい。
ナポリ(イタリア)
「ナポリを見て死ね」という格言があるらしい。次のような意味だろう。①ナポリは美しい街だから、死ぬ前に一度はナポリを見ておけ。②ナポリより美しい街は存在しないから、ナポリを見たお前はこの世の最もよきものをもう見てしまったのだから、もう生きてても仕方ない。死ね。
実際のところがどうであれ、そういう格言が存在すると知ってしまった以上は、死をリアルに予定している俺たちとしては訪れない手はない。なんでもナポリは海沿いの美しい街で、古いカトリックの教会がたくさんあり、有名なヴェスヴィオ火山が近くにあり、ピッツァがめちゃめちゃ美味いらしい。そもそもは「蟹を食う」という願いから出発した旅だから、食の道楽にはこだわりたい。この世のうまいものを食いつくして死ぬ。
アテネ(ギリシャ)
ギリシャ・アテネ。アクロポリスの丘、パルテノン神殿。キングオブ世界遺産。姫路城とはランクが違う。ほか、周辺にある古代ギリシャの数々の遺跡、ぜひ見たい。見て死にたい。ここは南欧だから、季節もまだ秋口だし、ごく薄着で街歩きする。ヨーロッパの人はノーブラが多いと聞くので、麻美ゆまちゃんにもブラジャーのことは金輪際忘れてしまおう。全ての所持ブラを捨てる。もう体型崩れを心配するほど余命もないのだから。(俺も付き合いで全トランクスを捨てるよ)
サントリーニ島(ギリシャ)
純白の壁、どこまでも青い海。「死ぬまでに見たい世界の絶景100」とかで必ず出てくる、ギリシャのサントリーニ島だ。ここにはビーチもあるらしい。麻美ゆまちゃんの熟れ熟れ水着姿をたっぷり堪能する。海辺のホテルに三泊くらいしたい。夜は波音の涼しく聞こえるレストランで、地中海の魚のグリルと、白ワインを頂く。ゆまちゃんはゆったりワンピースをノーブラ・ノーパンで纏っている。隙さえあれば手マンする。青い屋根のチャペルで疑似結婚式。<死ガ二人ヲ分カツマデ>。
イスタンブール(トルコ)
ついにヨーロッパから、そしてキリスト教圏から出た。トルコでぜひ訪れたい場所がある。アヤソフィア。イスラム教の寺院だ。外見もスゴイが、内部がものすごく荘厳で、美しいらしい。圧倒されたい。仏教と神道の国から来た不信の徒をして、ゆえしらぬ感動の涙が流さしめよ。
カッパドキア(トルコ)
同じトルコの、カッパドキア。ここも訪れてみたい。奇岩が聳える魔境らしい。で、ここの風物詩は、灰色の景色の中に浮かぶ色とりどりの気球であるとか。俺たち自身もこの気球の一つに乗って、空に舞い上がりたい。そろそろ、もうこの人生にも満足がいってきた。
エジプト
そうして俺と麻美ゆまはエジプトに辿り着いたのだった。ピラミッドもスフィンクスも見た。砂漠でラクダにも乗った。
ここで立ち止まって状況を整理しよう。何をしてきて、今どういう状況か。
・上記以外にも、たくさんの場所を訪れ、たくさんのものを見た
・たとえば北欧でオーロラを見た
・旅のイニシアチブは全て女が取った
・女は英語にも堪能であって、無能無気力の俺はただ連れられた
・そのかわり、エロに関しては俺が主導した
・2発抜かない日は一日としてなかった
・あらゆる場所で胸をもみ、手マンし、放尿させた
・こうして、欧州のほとんどすべての国、夥しい都市を巡った
・「一日五万円使う」との努力目標を貫いた
・160日が経った
・夏過ぎて、秋が来て、秋過ぎて、冬が来て、今は2月である
・残金、50万円
移動し続け、見・食い・体験し続け、セックスし続け、200日で10年分を生きた俺たちは、ついにライフを1000万から50万にまで擦り減らすことに成功した。旅路はいよいよフィニッシュにさしかかった……。
死ねるの? ねえ……
私たち……
やっと、死ねるのね?
『雪女と蟹を食う』俺が主人公だったらどうするか~蟹を食う編~
最後に何をしたい?と訊くと、麻美ゆまはこう答えた。
……日本に帰りたい。
俺たちはカイロ国際空港(エジプト)から空路、日本へ。乗り換え2回、22時間の旅を、エコノミーで。もうビジネスクラスになぞ乗るカネはなかった。
疲れ切って帰ってきた。成田空港ではない。新千歳空港である。
「北海道で蟹を食う」。それを改めてして、死のうと思った。
残金で最後の何泊かを札幌で、小樽で、函館で。ウラジオストクに行くとき乗り捨てた車はもうない、新たにレンタカーを借りることもできないから、電車で移動する。温泉が沁みる。味噌汁が沁みる。納豆がうまい。
蟹を食って、食って、食った。
食って食って食いまくった。
そうして財布を逆さに振ってももう何も出ないことを確かめて、宿に帰ってセックスして、ふたりで劇薬を飲んで果てた。
ありがとう、女
400回のセックスをありがとう
ありがとう、世界
40の国、400の都市おもしろかった
ありがとう、日本
うまいカレーと納豆と味噌汁と日本酒を
ありがとう、北海道
極上の蟹を
そうしてありがとう、読者よ、俺たちの遥かな旅路に付き合ってくれて。俺たちは黄泉路だ。もうふりかえらない。
~『雪女と蟹を食う』完~
『雪女と蟹を食う』読む
漫画『雪女と蟹を食う』最初の3話はヤンマガのサイトで読める。
俺自身は、マガジンの公式アプリ「マガポケ」で読んだ。
アプリストアで「マガポケ」で調べればこんなアイコンのやつがすぐ見つかると思う。
ただ、マガポケで無料(無課金)で『雪女と蟹を食う』読もうと思ったら、最初の4話はすぐ読めるが、それ以降は読むペースに一定の制限がある。細かい説明は省くが、一日最大3話までしか読めない。
俺自身は26話まで読んでストップしている。なんでかというと、それ以降は仕様上さらに読むペースへの制限が厳しいので。つまり俺は、この記事を『雪女と蟹を食う』を完読しないで書いている。
原作の『雪女と蟹を食う』では、一行はたぶんシベリア鉄道など乗らないし、ヨーロッパを苦行僧のように遍歴もしない。多分ラスト自殺もしないと思う。そのかわり、違う意味で変化にとんだ、面白い作品になっていると思います。
そのうちちゃんと全部読みたいなとは思っている。無課金のアプリ内ポイントは今のところ『進撃の巨人』に全振りしてしまっているので、そっちが読み終わったらね。
~【超考察】マンガ『雪女と蟹を食う』、もし俺が主人公だったら(予算1000万で旅するのに)・完~
このシリーズでは他にも漫画に想を得た妄想考察を書いていきたい。
・ハンターハンターのコルトピについてはすでに書いた。→こちら
・デスノートを俺が手にしたらどう使うか、
・神龍に願いをかけられるなら何を願うか、
・プラチナエンドの赤い矢を放てるならどう使うか、
・透明人間になれたら何をするか、
・時間停止できたら何をするか、
などなど書いていきたい。乞うご期待ッス